審査を終えて

審査委員からのメッセージ

~Message From Examination Committee~

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第17回キッズデザイン賞の審査を終えて、思いを寄せていただきました。

審査委員長

審査委員長 益田 文和

益田 文和

近年、デザイン領域では、ユニバーサルデザイン、ソーシャルデザイン、サステナブルデザインなど、様々な評価軸が立てられ、評価方法も定着してきている。キッズデザインにもこれらを読み込んだ作品が増えた。
それ自体は良いことではあるが、そうした配慮を単なるエクスキューズにするべきではなく、もっと訴求ポイントを明確にしていく必要がある。キッズデザインにおいてもどこにフォーカスを当て、何を解決しようとしているのかを明らかにすることが、作る側にも、審査する側にも必要となる。

一方、キッズデザインは幅広い視点を持つデザインであるべきだと考えている。課題解決の方向も日本的画一性のなかへ落とし込まれているような傾向が気になった。例えば重くなり続ける子どもの教材に対応したランドセルの軽量化は一面有効だが、国によっては学校から帰るときは何も持って帰らせないところもある。教育の場と生活の場を切り離すということであり、そこまで考えると日本の子どもの暮らしぶりはこのままで本当に良いのかという疑問が起こるのである。デザインが生まれる背景までをも考えていかないとソリューションが矮小化してしまう。子どもを見る視点を広く持ち、様々な子どもが気持ちよく生きていけるようなデザインを提案するべきだと思う。

世界的にみて、意味不明な日本語のひとつが「社会人」だ。そもそも社会は子どもも含めた多様な人間によって成立しているわけであって、その中であえて社会人という括りがどうしてできるのか、訳がわからない。子どもは社会の真ん中にある大切な成長点である。大人が子どもに期待する社会人像などではなく、子どもが見ている世界に着目するととても面白い。子どもの目になって社会を見てデザインを提案していくことができれば、それこそがキッズデザインだ。

副審査委員長

副審査委員 赤池 学

赤池 学

キッズデザインは子どもの安全・安心に配慮したデザインがその根幹にあることに変わりはないが、今年の作品を俯瞰すると、いわゆるインクルーシブ・デザイン、子どものためにデザインをするだけではなく、子ども自身が当事者としてデザインに関わっている作品が目立っている。
こうした方向に社会も、自治体も、企業も大きくシフトしていると感じられる。
社会的に「弱い存在」である子どもという捉え方から脱却し、キッズデザイン自体が大きく変化を遂げていると思えた審査会であった。

副審査委員 持丸 正明

持丸 正明

キッズデザインを促進するにあたり、社会の中でデータを取って検証するサイクルはとても重要である。
昨今、安全性の側面に社会性が入ってくるなど、介入の方法が複雑になっており、データの検証も非常に難しくなっている。キッズデザイン賞としては、こうした取組を推奨しきちんと開示して、今後のキッズデザイン開発に資することが社会的役割であると認識している。
今後はこうした取組がビジネスの礎になっていくと思うので、今後もチャレンジしていただきたい。

副審査委員 山中 龍宏

山中 龍宏

全体的に新しい応募が少なく、機能面での有効性をきちんと伝えている作品がもっと増えて欲しいと思う。一方で、障がい者の運動を促すインクルーシブ遊具などこれからの時代に必要な考え方は評価したい。実証実験を通じて得た様々なデータをもとに、製品設計に活かしている点はとても良いと思う。
時代のキーワードとしてのエコロジー、サステナブルの視点を持ったものが、子どもの生活環境の中の製品にも活かされていることも特徴的だった。
子どもの事故防止という点ではブラインド紐の工夫やテレビ台の転倒防止、自転車の駐輪のしやすさなど、日常生活に近しい領域の製品に良い取組があり、これは評価したいと思う。

審査委員

審査委員 赤松 幹之

赤松 幹之

デジタル技術、ネットワーク技術が大きく進化し、様々なデータが取れるようになっているので、それらをいかに活用していくかがカギになる。
データは溜まり続け、塩漬けになるケースが多々あるので、きちんと分析・評価をして、製品やサービスにフィードバックするサイクルに取り込み、社会で共有すべきデータとして公表していただきたい。
そのデータが社会でさらに活用されるというプロセスを生み出すことこそが、キッズデザイン賞の調査・研究分野の目指すところだと考えている。

審査委員 五十嵐 久枝

五十嵐 久枝

コロナ禍で一旦立ち止まった感があり、その時間を得たことによってマイナス修正したデザインに目が留まる。
「濱帯」のようなシンプルで使い手の自由度に任せるものが登場してきたように、キッズデザインには本来、誰でも使いやすいという視点はあったと思うが、社会はそこに再びフォーカスしてきていると感じた審査であった。同時にリサイクル、特に素材に卵殻、貝殻、紙などを組み込んだ商材が増えつつあり、デザインも向上している。こうしたクオリティアップが常態化していく期待を感じている。
コロナ禍で立ち止まって過去の価値を振り返る流れがよかったと思う。

審査委員 大月 ヒロ子

大月 ヒロ子

『こども選挙』『未来の山口の授業 at School』の2作品が、これからの明るく健康な未来を予感させる素敵なプログラムだと感じた。これらの作品に込められた視点にこそ、未来へのデザインの方向性があり、今後のキッズデザイン賞の参考にもなる重要な視点、気づきをもたらしてくれるのではないか考えている。
『ユニセフハウス』などグローバルな課題を取り上げた展示も印象に残った。
こうした展示が他企業と組んで移動・巡回するようなコラボレーションが生まれてくるとさらに強力なプログラムになると思う。

審査委員 岡﨑 章

岡﨑 章

私の研究領域は、人間情報学の中の「感性デザイン学」です。分かりやすく言えば「ユーザの心理に焦点を当て、デザイン要素を駆使して人の心理をより良い方へ導く学問」です。

この視点で見ると、今までは、気持ちがワクワクする・思わず触ってみたいという「快のイメージ心理を増幅するためのデザイン」がメインでしたが、この対極にあるのが「負のイメージ心理を軽減するためのデザイン」です。
負のイメージ心理を軽減するとは、大人でさえ入院を余儀なくされれば心理的に大きな負荷となったとき、あるいは、未曽有の災害に避難を余儀なくされ避難生活が長引いたとき「どれだけ心の支えが必要か」を想像すれば、その意味が分かると思います。

そう考えると、子どもが持つ負のイメージ心理を軽減するためのデザインは、これから益々重要になってくるはずです。
したがって、私が期待するのは、リデザインのようなものではなく、この視点に立った新たな提案です。それを大いに期待しています。

審査委員 定行 まり子

定行 まり子

数年にわたったコロナ禍で、技術的に進化したものがたくさんある。
AI、センサーの進化は安全性にも大きく関わっており、今回の応募にも反映されている。一方で気になる点は、子どもの認知発達の面であらゆる機能が自動化することが正しいのかということである。その実証には時間がかかるだろうが、重要な課題だろう。
集合住宅や量産住宅では、在宅時間の増加に伴い、空間のクオリティが上がり、洗練された住宅が多くなった。特に住宅の中と外との関係の作り方のデザインが良くなっている。同時に教育的あるいは参加型の視点を取り入れた提案に新奇性が認められる。

審査委員 竹内 昌義

竹内 昌義

今回初めて審査に参加させていただきました。様々な子どものための建築や空間があってとても興味深かったです。身体的スケールや知育の発達の違いなど多様な子どもにとって、空間の及ぼす影響はとても大きいことが感じられた。
一方、個人的には、必要以上にカラフルなものや赤ちゃん扱いするものには抵抗がある。デザインはこれは大人用、これは子ども用と明確に区別すべきではなく、大人に対するデザインにあるような感覚が必要だ。その点で質の高さを感じられる提案が多かった。
また、建築は社会を反映する鏡のようなもの、脱炭素社会に向けた自然環境をうまく活かし、快適性を保ちながらエネルギーをセーブできる未来の建築がもっとあっても良いと思いました。

審査委員 竹村 真一

竹村 真一

受賞作のYCAMなど、地域の再発見、地域社会のコミュニケーションの触媒としてミュージアムが果たす役割と未来的な可能性が垣間見える事例がいくつかあったのが収穫でした。
今回受賞が叶わなかった応募団体は、評価された作品を参考にして、さらにもう一工夫して、新しい時代にふさわしいコミュニケーションデザインのヒントをぜひ学んでもらいたいと思います。
また、AIやデジタルの時代だからこそ、アナログとして返ってくる作品(たとえばリアルな靴となって戻ってくるプロジェクトなど)、建築でも自分で作るプロセスを取り入れるなど、実体験の中から社会のインフラを自分の手に取り戻す動きはもっと出てきてもよいと思いました。尖ったデザインではなくても、たとえば「交通量モニタリング・マップ」など身近な生活の中でモノの見方、町の歩き方など、視点を変える、意識化に違うモードを作るきっかけを提供するようなワークショップがあったことも重要だと感じます。

審査委員 中村 俊介

中村 俊介

アプリ系・サービス系の作品が増えており、見ごたえがあったと感じています。コロナ禍で方向性が変わるのではないか、という予感もあったが、実際はそれほどでもなく、コロナを経験したことで新しいサービスが生まれたというよりも、以前に戻っていった感がありました。
知育や学びの分野では、もっと子どもの自由度を信じてあげて欲しいと思います。大人が作る子ども向けサービスは、説教じみたり価値観を押し付けたり、型にはめがちになってしまうので、子どもが自由に発想できる余白を持たせて、自分の考えた通りに新しい体験ができるようなサービス、ツールがもっと出てくると嬉しく思います。

審査時には既に話題となっていた生成AIも、ともすると効率化や業務改善の手段になりがちです。今後は、どのように取り込むことで子ども達の成長や発達に寄与できるか、という視点で、新たなサービスが現れてくることを楽しみにしています。

審査委員 西田 佳史

西田 佳史

人工知能やセンサーの領域は他の安全分野では大きく発展しているが、キッズデザインの領域ではその取り込みがまだまだ不十分な感じがしている。そうした分野からの応募がもっとあってよい。
SDGsの原則に「誰一人取り残さない」というワードがあるが、キッズデザインには本来そういう視点があった。大人向け製品であっても子どもにも配慮するという視点がキッズデザインの本質である。
しかし最近では訴求ポイントが不明瞭なものも見受けられる。子どものいる家庭でも利用できる、母親に役に立つから子どもにも良い、といったことではなく、どこが安全面や成育面に役立つのかを明確にするなど、キッズデザインの視点をしっかり訴求して応募いただきたいと感じた。
良かった点としては、ブラインド紐の事故予防対策など、これまで安全性、機能性から入ってきた作品で徐々に意匠性も上がってきた。進化が深くなっている流れは歓迎すべきことである。

審査委員 橋田 規子

橋田 規子

ウクライナ問題等で資材調達に支障があることもあると思うが、専門領域である住宅設備の作品が少なかったことは残念である。
子ども、子育ての視点から見て、この領域にはまだやるべきことはたくさんあるので、積極的に応募いただきたい。コロナの収束も十分ではない中、子どもの衛生や安全の側面でももっと新たな提案が出てきてもよいと思う。
量産住宅では、近隣の家族等とコミュニティを作り、相互見守りを促す取組も増えているが、リスクも抱える可能性もあり、いかに信頼性や安全を担保しながらコミュニティを作っていくか、は今後の重要な課題と考えている。住宅地開発では良いアイデアであっても、運営、ソフト面での心配もぬぐい切れない点も気になるところである。

審査委員 深田 昭三

深田 昭三

子どもたちが使う製品や、保育支援サービスの提案の中には、もっと現場に行って学んで、製品開発やサービス企画に活かしたらいいのにと思う作品も見受けられた。子どもならこういうものを喜ぶだろうとか、保育のためにこういうサービスがいいんだろうという「思い込み」ではなく、実際に現場に足を運んで、子どもたちの姿や保育士の声から学び、より優れた製品やサービスに繋げることが重要だと考える。加えて、子どもの自由な発想や試行錯誤の余地を残しておくことも、創造性を育成するためには欠かせない。
そのためには、作品を作る側が自由な発想を持って開発に当たり、自分たちも使って楽しいと思える作品を生み出すことが大切なのではないだろうか。

審査委員 宮城 俊作

宮城 俊作

キッズデザイン賞も回を重ね、クオリティが上がっている。
特にこども園、保育園、幼稚園に関しては、初期であれば確実に入賞していたであろう作品も選外になるものもあり、スタンダードのレベルがとても上がってきていると感じる。
こども園などを専門に設計する企業の台頭など、こうした領域がマーケットとしても設計者に意識されるようになってきていることの証左であろう。一方で、一般向けの施設では、キッズデザイン賞の視点が明確でないものも目立ち、差別化のポイントが曖昧になりがちである。今一度、キッズデザインとしての訴求点を明らかにして応募にチャレンジしていただきたいと思う。

審査委員 森本 千絵

森本 千絵

子ども向けの活動ならこういう感じだろう、と大人だけが満足している作品も多い中、子どもが主体となる選挙の活動や次世代を担う子ども自身が自分の住む街の未来を考える作品が印象に残った。
子どもの意見を取り入れながら、大人と一緒に考えて未来を作っていくことの重要性を改めて認識された。未来を生きる主役は子どもであり、子どもを子どもとして見るのではなく、子どもが発想しそれを子どもがつないでいく。
その未来を大人も一緒に発想したり、子どもにわかりやすく提示しながら、一緒に未来を考えていこうよと思っている取組に共感した。

審査委員 山中 敏正

山中 敏正

今年は難しい審査であった。多様性をどう捉えるかという問題はキッズデザインの中でも今後もっと問われてくるだろう。
子どもの中にも様々な子どもがいて、それをケアする立場としての親だけでなく、多様な関わりの中で考えないと子どもの世界は成り立たない。安易なエビデンスでそれを実現したという作品は本賞では評価すべきではない。
一方でコロナ禍や国際間紛争でお金の流れが変わっており、ユニバーサルデザインへの投資が減っている感がある。世界的にすでに浸透したと思われている傾向にあるが、子どもの視点でみるとまだ課題の山だと感じている。この分野でも新しい課題を発見して、それを解決するデザインの登場に期待したい。

審査委員 渡 和由

渡 和由

子どもをどう育てるか、その時に立地条件をどう活かすか、さらに言えば日本人としてどう育てるか、それに応える空間デザインとは何か、目標とする建築はどのようなものか、という視点が欲しいと思った。さらにその空間をどうデザインして、どう使うかということも表現していただきたいという気がした。
また土地を意図的に選んでいるのか、施設側や設計側がいかに関与しているのかについても知りたいところである。川沿い、海沿いなど特殊な立地条件の作品もあり、周辺環境とどう調和し、どう活かすかもデザインの重要な要素になってくる。
キッズデザイン賞の実証事例が発するメッセージは今後、さらに重要になると思う。