審査を終えて

審査委員からのメッセージ

~Message From Examination Committee~

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第16回キッズデザイン賞の審査を終えて、思いを寄せていただきました。

審査委員長

審査委員長 益田 文和

益田 文和

応募される製品や施設、サービスの機能については進化してきましたし、子育てについても課題が明確になってきて問題解決に通じてきていると思います。ただ、キッズデザイン賞が伝統的に子どもの心理を追いかけていることを考えると、その点での掘り下げが提案になかなか反映されていないように感じられます。
地球環境や国家間の紛争などに対する不安は大人の世界でも広がっており、このままいったらどうなるんだろう、何を食べて何をしたらよいのだろうと、子どもたちも漠然とした不安を抱えていると思います。コロナ禍も、深いところで不安を生んでいるでしょう。
そういう状況に対して、デザインができることはたくさんあるはずです。例えば環境を考えた素材などもその一つだと思いますが、今後は、そうした子どもの心理に寄り添っていく提案に期待したいと考えています。

副審査委員長

副審査委員 赤池 学

赤池 学

キッズデザイン賞で高い評価を得る作品は、今まででそれが答えだと当たり前に思ってきたことに対しての疑いの目を向けていく開発の姿勢を持っているか に尽きると思います。今あるものの延長で考え、それを伸ばしていくだけではなく、「深めていく」ことがとても重要だと思っています。

DXの時代になり、SDGsの取組も重要視される中で、すでに応募者の皆さんの多くが実践されているかと思いますが、これも「古きを温め、新しきに繋ぐ」ことが大切だと感じています。今までになかった新しさだけではなく、古き良きもの、 持続的に社会で受容されてきたものに一体どのような価値があったのか、という問いに 改めて 向き合って、その価値をその新しきに繋いでいくセンスが求められているのではないでしょうか。これはキッズデザイン賞に留まらず、すべてのビジネスに共通していることかもしれません。次回以降のキッズデザイン賞でも、かつてあった我が国の魅力的な古きものに学び、チャーミングな製品やコミュニケーションに変換した、そんな作品にたくさん出合いたいと思っています。

副審査委員 持丸 正明

持丸 正明

調査・研究は、研究という形でプランニングをし、エビデンスをとることが求められます。例えばアンケートという形であっても、定量的に計測する方法が含まれることも多いので、引き続きアタックしていただけるとよいと思います。単に作ってみました、それっぽく仕上がりましたというだけではなく、それが子どもの安全にどうつながっているのか、有効性はどこにあるのかがわかる大事な活動だと思います。

コロナ禍の中で子どものライフスタイルが大きな影響を受けている、と私は認識をしていて、活動量が減ったり、コミュニケーションが変化したりしているはずです。それが学校の教育現場にも影響を及ぼし、デジタル端末の導入促進にも繋がっていると理解しています。こうしたことの影響や新しいデザイン・アプローチの検証などについて、調査・研究した作品が出てきてくれると嬉しいと思います。そしてそうした成果が次のプロダクトやサービスの開発につながっていくことを願っています。

副審査委員 山中 龍宏

山中 龍宏

全般的にみると、子どもための新しいデザイン、新しいコンセプトの製品が少ないと思いました。小児科医の立場からすると、いまだに様々な事故が起こっています。その多くは製品や環境が絡んでいるわけですから、それを解決する製品を開発しようと思わないと新たな発想のものは出てこないでしょう。社会で問題になっているような事案を取り上げていく必要があります。

例えば、今も三か月に一人くらい、子どものベランダからの転落死事故が起こっています。事故が起こっている以上、その事実を認識して、ベランダのデザインをどう変えたらよいか、絶対に落ちないための工夫やデザインを考えなければいけません。例えば、東京消防庁が救急搬送している子どもの日常生活事故は年間に1万数千件あります。その中で、ベッドでも、階段でも、事故の情報を調べて、それを改善しようと考えれば、新しいコンセプトの製品ができるでしょう。被害が起こっている状況を認識する必要があるのです。特に重傷度が高い事故の情報を皆で共有して、あるいは情報を提供する勉強会やデータベースを整備して、製品開発を促す仕組みの構築が必要だと考えています。

審査委員

審査委員 赤松 佳珠子
撮影:(C)ToLoLo_studio

赤松 佳珠子

地域との関係性構築や新しい領域への試みなどが見られる提案もあってよかったと思います。これからの時代、子どもの施設もそこでデザインが閉じることなく、地域とともに街をつくっていく、未来をつくっていくことの重要性がクローズアップされています。ここは重要な点なので、プレゼンテーション資料でもより明確に訴求していただけるとよいと思います。

キッズデザイン賞ですから、子どものクローズアップの写真を並べるだけではなく、建築や空間、都市と子どもの関係のあり方、外部とのつながりでどのように子どもの活動が促されているのか、がわかるプレゼンテーションの工夫をしていただきたいです。こうした部分でクオリティが高い作品が確実に出てきており、さらにキッズデザイン賞が広がっていくとよいと感じています。

審査委員 赤松 幹之

赤松 幹之

調査・研究はデータを取ることが最も重要なことではありますが、ただデータを取ればよいわけではなく、何を主張したいか、どのような効果があるのか、どういった課題を解決したいかなど、自分たちが何を狙っているかをよく考え、それに役立つデータをとることが大事です。また調査・研究に取り組むことは、自分たちが本当は何をやりたかったのか、をじっくり考える良い機会でもあります。単に作品を応募するだけではなく、自分たちのことを今一度振り返り、本来の目的を達成するデザインがなされているかを確認する良いツールであると考えていただきたいと思っています。

例えば、課題を見つけるための調査であれば、数よりも丁寧にデータを取ってその中から課題の抽出や着眼点の発掘をするプロセスに注力した方がよい場合もあります。逆にやりたい、決めたい事項が明確であるなら、それに対応した対象者を多く集め、きちんとデータを取るということが大事です。子どもの調査は特にばらつきが大きいので、いかにそれを減らすか、適切な統計は何か、を考え全体のデザインをするようにして下さい。

審査委員 五十嵐 久枝

五十嵐 久枝

今回は大人でも使いたいと思える作品もいくつかあり、キッズデザイン賞の中で自分自身が使いたいと思えるものが出てきたことは発見でした。安全性を確保したメジャーやくるくる回しながらシャープペンシルのように出てくる消しゴムなど、ユニークなものが印象に残りました。この分野はこれまではベビーに目を向けた作品が多く、子育て支援グッズの進化は顕著に見えていたのですが、小学生以上の子どもを対象に考えた面白い製品が出てくると、大人にも良い影響が出てくるのではないか、子どもも親も共有できるようなプロダクトが増えてくるのではないか、そんな兆しが感じられた点がよかったと思っています。

気になった点は、近年、海洋プラスチック問題が大きな問題として取り上げられている中で、先々の子どもたちのためにも環境問題をしっかり考え、商品を作り出していただきたいと思いました。例えばウレタンを使った製品などがまだ多く見られる点は気になっており、素材の選定工夫を考慮いただきたいと思います。

審査委員 大月 ヒロ子

大月 ヒロ子

審査をしていて、「大人社会の子ども版」といったような作品が少し増えているかなという感じがあり、そこが残念なところです。現状を打破するエネルギーや社会を変革する力は大人社会のシステムありきでは生まれてこないような気がしているので、むしろ子どもから教わるといった目線が必要ではないかと思っています。子どもに対して大人が関わる姿勢のあり方を今一度考えていきたい、ということが全体を通じて思ったことです。

審査委員 岡﨑 章

岡﨑 章

私の研究領域は、人間情報学の中の感性デザイン学ですが、その視点で見ると、気持ちがワクワクする、思わず触ってみたい、そういったことがどのように組み込んであるか、を明確に説明していただきたいと思います。単に子ども向けの色を使いました、のような作品がまだまだ見られるのですが、これまでと違う色を使ったのは感性デザイン学から、こういう理由があるからですとか、日本古来の色、例えば陽炎色を使った意味はここにあります、といった発想が欲しいと思うのです。

さらに、これは一番重要だと思っているのですが、今、ジェンダーフリーの考え方は浸透してきたものの、障害児のためのデザイン、入院患者の心を考慮したデザインとは何ですかと言う、その解が出てきていません。なぜかというと売れないからでしょう。しかし、ここに焦点を当てることは、子どものためのデザインの根幹であるように思います。その知見は、健常児のデザインに生かされることになるはずです。是非そうした商品を開発して欲しいと思います。

審査委員 定行 まり子

定行 まり子

コロナ禍の中で様々な空間のあり方、環境のあり方、特にマクロな空間の空気環境の衛生対策が提案されてきました。また、自然災害への対応や省エネ化に向けた取り組みなども子育て環境づくりの大きな課題となっていると思いました。安全性向上のデザインに実績ある企業だけでなく、新たな顔ぶれの企業が取り組んでくれた点もとても嬉しく感じます。

少子化の中で、子育てをコミュニティ全体で受け持とうという考えもたくさん見られました。戸建て住宅の敷地にも路地を作ったり、コモンを作ったり、緑を取り入れたりなどの提案があり、気持ちよい空間という感想を持ちました。この分野ではさらに新しい提案ができるのではないかと思っています。あとは働き方も大きく変わっていて、これは子育て環境にも大きな変化を与えています。この分野にも今後もっとチャレンジングなものが出てくるだろうと期待しています。

審査委員 竹村 真一

竹村 真一

2050年に今の仕事の半分から7割がなくなっていると言われる時代の中で、地球環境と人間のサステナビリティと同時に自企業・産業自体のサステナビリティも問われるなかで、企業自身も自己変革が必要です。
例えば航空機やドローンや空飛ぶ車などについても、単に「夢の技術革新」として提示するだけでなく、都市の高層化も含めて「人間の居住空間が3次元化していく」――「空」(空中空間)が人類の活動空間として本格的に活用されていくなかで、産業としてどういう未来社会のイメージを描くかが大切です。子どもたちはそうした世界に生きていくのですから、それに対して大人社会は責任がある。どんな世界に子どもたちを送り出そうとしているのか、その本気度が感じられるような試みがもっと出てくることを期待しています。

また自らの業態のサプライチェーン、バリューチェーン全体を視野に入れること。廃棄物のリサイクル、アップサイクルにまで視野に広げれば、自分たちだけではできないわけで、生活者や地域の動植物も含めたバリューチェーンの多様なアクターとつながって共創するビジョン(人間界に閉じないパートナーシップ)。そこまでの包括性をもってこそ、次世代への本当に力がある提案になると思います。

審査委員 中村 俊介

中村 俊介

全体的にクオリティが上がっている反面、あまり波乱がなかった今回の審査でした。尖った提案が少なかった分、ベースとなる部分は揃いつつあるといった状況でしょうか。オンライン環境が日常的になったため、それを前提にしたサービスが出てきていることと、男性の育児参加を促す作品も多く見られて、時代の変化を感じました。

アプリ・サービス分野では、マッチングやサブスクなど、遊び方自体は同じでも提供方法を変えたようなものが多かった印象です。その意味では、せっかくオンライン環境やアプリケーションの利用が普通になり、タブレット等を子どもたちが使うシーンも当たり前になってきているので、新しい遊び方自体の提案が出てくるのを期待しています。

審査委員 西田 佳史

西田 佳史

私はキッズデザイン賞の作品の中でも特に子どもの安全面の観点で拝見いたしました。過去にあったアイデアが広がりつつある一方で、今回は安全に関する革新的提案が少ない印象でした。まだまだ子どもの事故は減っておらず、新たな安全配慮の領域開拓に大いに期待したいと思っています。
人工知能やセンサを駆使した安全技術の市場には、見守り技術など多くの製品が見られるようになりましたが、キッズデザイン賞への応募が少ないと思っています。例えば、園バスの事故でも注目された熱中症予防技術(チャイルドシートなど)の開発のニュースなども拝見したことがあります。ベランダからの転落、浴室での溺水、熱傷など、見守り技術が必要とされている対象が数多くあります。是非、新しい技術による子どもの安全確保の分野でのチャレンジも応募していただきたいと考えています。
また、文房具系はアイデア商品的なものが多いようですが、キッズデザインの視点で見た時に、安全面や発育発達支援面でのメッセージ性や明快なコンセプトがあると審査会でも評価しやすいと思いました。

審査委員 橋田 規子

橋田 規子

私は住宅設備の仕事をしてきましたが、建築設備の領域が弱く、例えば水回り設備なども、コロナ禍での衛生対策という意味でもっと数が出てきてもよかったと思います。住宅分野では多様な工夫がなされていましたが、既存のアイデアを詰め込んだような作品も多々あり、新規性やインパクトに欠けていると感じました。
さらにキッズデザイン賞としてどこが訴求ポイントかを明確にプレゼンテーションして欲しいと思いました。全世代に対して良いものであるという姿勢はわかりますが、子ども・子育ての視点から見てどこが差別化のポイントであるか、審査側が咀嚼しないとわからない作品もあり、そこをきちんと説明していただきたい。訴求ポイントをもっと絞って、それを明快に表現して欲しいと思います。
その中にあって、過疎地の子育てコミュニティの提案、そこにITを取り込む工夫など全方向で実施している優れた作品もありました。全国でこうした試みが進むことを期待しています。

審査委員 深田 昭三

深田 昭三

子どもの創造性を育もうとするときには、「子どもにはこういうものがいいだろう」とか「こういうことをやらせたらいい」といった大人側の思い込みがお仕着せとなり、逆効果になることが少なくありません。創造性を育むには、使い手である子どもの「自由感」や「創造の喜び」をどのように保証していくか、この観点が、製品開発の際にも重要になるのではと思います。この点で、アプリケーション分野では、デバイスに閉じるのではなく、アプリを核に人と人との関係を結んだり、リアルな体験とつなげたりする優れた提案が増えてきました。様々な「つながり」を深める取り組みには高く評価できるものも多かったと感じました。

優れた製品は、それを使った人が幸せになり、ひいては社会全体の幸せの総量を高めていくことができるものと思います。人々のより豊かで幸せな生活の手助けとなる作品がキッズデザイン賞を通じて、ますます増えることを願っています。

審査委員 宮城 俊作

宮城 俊作

ここ数年、建築・空間分野の作品のクオリティがどんどん上がってきているように感じています。デザインのクオリティもさることながら、この分野で扱うプログラムがとても多様化してきています。ローカリティを反映していることが多様化につながっていて、地域によってキッズデザインに期待すること、ニーズも異なっているということです。

これまでキッズデザイン賞は、スタンダードとしてここは守りましょう、という基準を示してきたと思うのですが、個々の作品にローカリティが反映されるようになり、また一段、次元が上がったのではないかと感じています。数年前であれば入選したであろう評価ポイントがすでに当たり前になっている。さらにそこに積み上げていく価値が必要になってきています。子ども視点で考えることが街の環境や暮らしの環境を考える時の大きなベースになっていると強く感じており、キッズデザインのスタンダードがこれからの街や暮らしのスタンダードと融合していくことを期待しています。

審査委員 森本 千絵

森本 千絵

子どもが関わりながら子どものためにつくる商品のプロジェクトなど、子どもが新しい行動を起こすきっかけになる作品が印象に残りました。アウトプットを綺麗にまとめることが目的ではなく、それを地道に、丁寧につくりだしている作品がいいなと思いました。

同時に賞をとると他の取組の見本になったり、新たな力になっていくので、自分が子育てをしながら発見したり出合ったりしている魅力的な作品がまだ応募されていないことが残念でした。積極的にキッズデザイン賞に応募したらいいなと声をかけたくなるものも多いので、次回へ向けても私もそういう活動もしていきたいと思っています。

審査委員 山中 敏正

山中 敏正

今年の応募作品の中に、この数年で定着したリモート環境が、子どもの発育を促し、創造性を高める取組につながっていくような提案があるかな、と想像していましたが、そうした環境を前提にしつつも既視感のある提案が多かった印象です。ということはツールや環境が変わっても、昔から我々が子育てに重要だと考えていることは大きく変わらないのかもしれない、というふうに思いました。

結局、子育ては人育てですから、子どもをよく見て、どう反応し、何を感じているかを、きちんと見ていくことがとても大事で、そのための支援ツールとして多様なツールを使うことが求められているのでしょう。特にアプリ・サービス分野では、新しいように見えて実は昔からあったなあ…というようなサービスも散見されました。その意味ではこれから先がどうなっていくかが楽しみです。

審査委員 渡 和由

渡 和由

建築と地域との関係性は今回の評価の重要なポイントだったと思います。地域には多様な側面があるので、例えば、対象空間の中から周辺の自然環境や施設への借景など、いろいろな空間的視野を意識することが重要です。
さらに自分の専門分野であるプレイスメイキングの視点で見ると、空間だけを用意するのではなく、そこに子どもの多様な居場所ができている作品が評価につながっていると思います。自分が居て、その周りに他の子どもや大人が居る空間が、窓の外につながって、そこに地域の人たちも一緒に居るような、子どもや大人にパブリックなつながりを感じさせる作品が選ばれています。そうした視点をもっと取り込み、アピールしていただくとさらによいでしょう。