審査を終えて

審査委員からのメッセージ

~Message From Examination Committee~

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第15回キッズデザイン賞の審査を終えて、思いを寄せていただきました。

審査委員長

審査委員長 益田 文和

益田 文和

応募される製品やサービスの機能についてはさまざまな展開方法も経験もあり、進化してきましたし、子育てについても課題が明確になってきて問題解決に通じてきていると思いますが、肝心の子どもの心理については新規性ある提案があまり見られません。キッズデザイン賞は伝統的に子どもの心理を追いかけているわけですが、プロダクトになかなか反映されてきません。
一方で子どもの中には、将来の地球環境に対する不安は世界的にも大きな問題になっており、このままいったらどうなるんだろう、何を食べて何をしたらよいのだろう、と本質的な部分での悩みや不安を抱えていると思います。コロナ禍においても、実は非常に深いところで不安な心理があるのだろうと思います。そういう状況に対して、デザインができることはたくさんあるはずですが、そこまで手が届いていない気がします。子どもの心理に迫っていく提案があるとよいと考えています。宗教観や思想、文化にも目を向けていかないと日本の製品が海外で使われていくことを考えた時に足りない部分がまだあるのではないでしょうか。
未来への安心感のようなものをもたらす製品、例えば環境を考えた素材などはその一つだと思いますが、そうしたアプローチも考えていく必要があります。

副審査委員長

副審査委員 赤池 学

赤池 学

2年間にわたるコロナ禍の中で、良いこと、正しいこと、懐かしく、打ち捨ててはならないことなどが、改めて顕在化してきたような気がします。伝統的な生活文化やお年寄りの知恵や経験に学び、日本の暮らし方や家屋のあり方を現代に活かしていく。こうした新しいキッズデザインの方向感が明確に表れていた今年度の審査でした。
一社、一業種だけではすでに解決できない問題が山積するなかで、子どもや子育てを取り巻く状況もより複雑化しています。多様なステークホルダーの協働を通じ、そこに伝統的な知恵や文化、地域の個性や特性を注ぎ込んでいく。
こうしたキッズデザインこそが、SDGsビジネスの根幹だと私たちは考えています。

副審査委員 持丸 正明

持丸 正明

技術・研究分野の取組では、実生活のアクティビティに関連するものが増えています。
つまり実験室レベルでの研究に留まるのではなく、子どもの体験や活動をいかに調査・分析しデータ化するかというアプローチが台頭してきているということです。これは良い傾向だと思っています。
一方で、ラボやVRを通じて体験や介入を行ったものをいかに評価するか、専門的に申し上げるといかに一般化していくかを意識すべき段階に入っているのではないかと思います。例えばワークショップ活動でも、同じ内容を別の人が実施できるくらい一般的な知識に落とし込んでいく、あるいは別のシナリオでワークショップをやろうとした際にトランスレートできるように形式知化していくということです。ある種の介入をすることで、どのような現象が起こるかを蓄積し知識化することで、類似の研究がより進んでいきます。
それが本来の研究にあるべき姿なので、そこへ向けてキッズデザインに関する研究も進化して欲しいと考えています。

副審査委員 山中 龍宏

山中 龍宏

子どもの安全は親が気を付けていれば何とかなる、と社会全体が思っているようですが、同じ事故が今もって同じように起こっています。
例えば、ベランダから落ちる、池で溺れるといった事故もそうです。今後はAI技術なども駆使して事故を予防するような流れにしていかねばなりません。
例えば、自分のスマートフォンに生まれた子どもの情報を登録しておけば、3か月になったらこういう事故の可能性があります、といった情報を提供することができるわけです。必要な時に必要な情報を与えられるような時代になってきました。キッズデザイン賞も直接その家庭や子どもに働きかけて生活環境を変えるといった、製品だけを考える時代から、その製品を持っている、あるいはその製品を使っている家庭の子ども用に情報を与えるような仕掛けができるようになることを期待します。

審査委員

審査委員 赤松 佳珠子
撮影:(C)ToLoLo_studio

赤松 佳珠子

今回の審査では、クオリティの高い作品が出てきたという感じがとてもあります。その一方で、デザインをまだ表面的な工夫や表層的な色のことと捉えている作品も少なくないという印象もありました。全体像がつかめない内容、例えば断片的な風景や子どもたちの様子ばかりがクローズアップされている資料のみでは、キッズデザイン賞としての評価ができません。建築物の全体像、周辺環境との関係を含めて、なぜこの建築なのかを明らかにしていただきたいと思います。全体像がわからないが故に評価できないものも少なからずありました。
子どもにとって、そこを使う人にとって、周辺環境や街に対して、さまざまな面での最適解をいかに構築していくかを含めて、全てがデザインであることを意識していただきたいと思います。
ここ数年、子どものデザインの本質はどこにあるべきか、を見極めて、建築や空間と一体化した素晴らしいクオリティの作品が増えていることはとても喜ばしいことですし、キッズデザイン賞を通じてそれが伝わっていくこと、来年以降もそうした作品が増えることを期待しています。

審査委員 赤松 幹之

赤松 幹之

調査・研究分野としては従来通りで大きな変化が見られない、言い換えると進化が感じ取ることができない審査でした。
過去の受賞作品でも、その後の研究でエビデンスやデータが蓄積されてきたものは改めてチャレンジしていただきたいと思います。VRなどの新技術も使いやすくなってきたので、実証実験の際に巧く使えるとよいと思います。
全体にやって終わり、という感じの作品も多いのですが、調査・研究分野ですから、評価・分析をきちんと行い、足りなかった点などを明確にしていただくと次に活かせると考えます。ご自身、さらには他の調査・研究される方々の参考になるような形で研究結果を残して欲しいと思います。

審査委員 五十嵐 久枝

五十嵐 久枝

私が注目した点は、子育てをサポートするプロダクトでよいものが出てきたなということです。
抱っこひもでは海外で生まれたものを日本人のサイズでも使いやすいようにカスタマイズできるようアダプターをつけたもの、多忙な共働き世帯に便利な子ども用の冷凍食品なども充実してきました。そして段々と、子どものためといって、かわいいキャラクターが入っているデザインからそろそろ脱却して、大人にも子どもにもあるべきデザインを考えていくフェーズに入っていると感じます。
機能が優れた製品が日本にはとても多くあり、子育てもしやすい国だと思いますが、出生率が伸びない現実を目の当たりにすると、キッズデザインからもっと広く応援できると良いと思います。もうひとつ環境とデザインの関係について、CO2排出削減、環境負荷低減の実践し、子どもたち自分たちの環境により良い未来となるようにキッズデザインからもメッセージを発していきたいと考えています。

審査委員 大月 ヒロ子

大月 ヒロ子

大人主導ではない柔らかなアイデアや新鮮な目線を持った取組、例えば、子どもと学生がしっかりとコラボレーションしているプログラムが特に印象に残りました。子どもと共に作り出していく、お互いにインスパイアされながら質を高めていくといったプロジェクトにキッズデザインの新しい未来が見えているように思います。
今回の審査では、特にそれが鮮やかに見えた作品がありました。子どもたち自身にプロジェクトを作る力があるのが明快に見えた良い年になったと思います。
今後は、ますます大人の側の感受性が問われてくる時代になるのではないかと思います。

審査委員 岡﨑 章

岡﨑 章

評価の視点を、何においているのか分かりやすく言うとすれば、既にあるものの焼き直しではないもの、プラスアルファに留まるものではないもの、ということになると思います。販売実績や意匠性のみに頼ることなく、新規性・独創性がどこにあるかを明確に言えていることが重要ということです。そのためには、多くの人が気付くことのできない問題を設定し、オリジナルな解決案に対して学術的な検証を行い、エビデンスがこうだからこのデザインを提案した、というプロセスが分かるように示されるとよいと思います。
子どもの感性や創造性を育むための斬新なアイデア、夢のある商品を期待しているのです。デザインとしての完成度が高いに越したことはありませんが、80%くらいだけれどもキッズデザインとして夢があるよね、といったものを期待しており、そういったデザインにこそ高い評価をしていきたいと考えています。

審査委員 定行 まり子

定行 まり子

コロナ禍の影響からモノに接触をしないデザインも多くあり、時宜を得た提案で丁寧につくられたものが出てきた点を嬉しく思いました。
一方で、様々な機能が自動化される中で、安全と衛生の考え方が子どもの育ちとの関係でどういう影響をもたらすかについては議論が必要と思っています。量産住宅の作品では、在宅で仕事ができるスペースと子どもの空間、家族の居場所としての空間、個としての子どもの場づくり、といった家族での時間と空間のあり方に配慮がある作品が印象に残りました。とりわけ室内と屋外の中間領域としてのテラスやベランダの設置には様々な取組が見られました。また離れや土間など、かつての日本家屋の空間や間取りが、コロナ禍の影響から豊かな空間づくりにおいて改めて見直されているようです。
新たな生活様式とキッズデザインの関係をさらに深めて考えていただけるとよいと感じました。

審査委員 竹村 真一

竹村 真一

コミュニケーション・デザインの重要なポイントは、子どもたちが世界を見る解像度を上げることだと考えています。
人間同士のコミュニケーションだけではなく、周りの世界とのコミュニケーションを期待するわけです。周りの自然に対するリスペクトや自分の身体に対するリスペクト、そのコミュニケーション・デザインが非常に重要です。それができていれば、結果的に安全で安心な世界は実現するはずですが、それをないがしろにしてきた部分が戦後の日本にはあるのではないでしょうか。コロナ禍の問題とコミュニケーション・デザイン、キッズデザインは本質的な関わりがあると思っています。
今回、問題提起も含めてそれを示唆してくれる優秀な作品がありました。さらにもう一つのポイントは参加性や主体性の視点です。子どもたちに教えてあげる、大人が評価してあげるという形はすでに旧来型です。子どもや親子を主体として位置付けたデザイン、一歩進んだパートナーシップづくりが重要な課題だと思います。今のSDGsはまだ人間界に閉じていて、自然というステークホルダーとのパートナーシップまでも視野に入れていくと、2030年を超えた飛距離を持ち得るのではないでしょうか。
個々の受賞作品やプロジェクトを横にかけあわせればより大きなシナジーが起こせるはずです。
キッズデザインが今後、ハブになり、プラットフォームになっていくことを期待しています。

審査委員 中村 俊介

中村 俊介

キッズデザイン賞の基本的な考えは、親や子育て層にとっていかに便利かということに留まるのではなく、それによって子どもがどのくらい幸せになったか、という点をデザインの視点から評価するということだと考えているため、その視点を大切にした審査を心掛けています。
個人的には、子どもが使うアプリがあまり応募されなかったという点が残念です。実際、世の中には面白い作品がとてもたくさんあるので、もっと応募が増えてもよいと思っています。昨年来のコロナ禍の社会的状況からみて、コロナによる影響を反映した作品がもっと出てくるかとも思いましたが、それほどでもありませんでした。
コロナによって世界が変わった後の新たなキッズデザインが今後、提案されてくると良いと強く思っています。

審査委員 西田 佳史

西田 佳史

今回はAI技術を子どもの安全確保に応用した作品も登場しており、こうした提案が今後も増えるとよいと感じました。ブラインドの紐による子どもの事故防止のためのデザインにも多様性が見られ、継続的に改良されていることもよい方向だと思います。
また、過去にキッズデザイン賞を受賞した技術や製品を活用した作品も見られ、企業間によるコラボレーションや製品のブラッシュアップが進んでいることは審査委員として、とても嬉しく感じます。
一方で一般向け製品の応募の際は、子どもや子育ての視点が明確でないものもありました。どこがキッズデザインとしての差別化のポイントなのかをしっかりとアピールしていただきたいところです。

審査委員 橋田 規子

橋田 規子

プロダクトのデザインでは、機能や意匠のプレゼンテーションに加えて、技術開発的なエビデンスと使い続けた後の効果や成果などをしっかりと証明していただきたいと思いました。設備系はコロナ禍の影響で衛生対策の工夫が積極的に提案されており、家に帰ってきてすぐ手を洗える所に洗面台を設置するなど、私が昔から必要と考えていたアイデアがここへ来て、やっと実現したと感じました。
さまざまな社会的背景や子どもを取り巻く状況の変化の中で、キッズデザインのあり方もまた変化していく、その方向性が見えた今年の審査だったと思います。

審査委員 深田 昭三

深田 昭三

コロナ禍の中で、優れたデザインの製品は、世の中にますます必要とされているのだろうと思います。特に子どもたちが、いわゆる伝統的な形の活動が制限されてもなお、成長・発達が促されるような作品が今回も多く見られてたいへん嬉しく感じました。
ひとつアドバイスをさせていただくとすれば、「教える」ということは、教える側の型にはめることではないということです。作り手側がこれを教えたいということよりも、使い手側がやってみたい、遊んでみたい、とても楽しかったというような気持ちを引き出す作品がさらに増えてくれると嬉しいなと思います。そのためには作り手側のもっと自由な発想や遊び心を持った作品づくりを心掛けてもらうとよいと思います。また、エビデンスも重要です。
「こんな発想でデザインしました」というプレゼンテーション資料は多いのですが、実際にこのような成果があった、という事例やデータなどを付けて欲しいと感じました。

審査委員 宮城 俊作

宮城 俊作

建築・空間分野は明らかにスタンダードの基準が上がってきています。特にこども園、保育園、幼稚園に関しては、キッズデザイン賞がスタートした時期からは考えられないほど多くの作品が応募されており、レベルも高い。皆さんがたくさんの事例を勉強されており、子どもにとって気持ちがよい空間であったり、安全・安心の配慮があったりというだけでは入賞しないというところまで来ました。その意味では私はキッズデザイン賞がレベルアップに大きく貢献してきたのではないかという印象を持っています。
一方で、医療施設や公園、街づくりといった新しいジャンルにも、子ども目線で考えられた作品が増えています。
こうした分野も、時間が経てばスタンダードが上がっていくだろうという期待があります。今年はそれを特に強く感じた年でした。

審査委員 森本 千絵

森本 千絵

コミュニケーション分野は子どもたちの未来をデザインする思考や想像力も育むものであるべきだと思っております。
当たり前にある目の前の問題を、大人だと理論的に考えていきますが、子どもたちは体験を通して学んでいくものです。アプリにしても制作にしても、身近なものから「うっかり」と夢中になれる道筋をきちんと作れているか。そこを大切に審査させていただきました。大人が与えて終わりではなく、子どもたち同士で伝えたくなることか、また続けられるかどうかが大事だと思います。人と人が直接繋がることができない時期だからこそ、コミュニケーション・デザインの大切さがより浮き彫りになった、ターニングポイントとなる年となったと思います。

審査委員 山中 敏正

山中 敏正

今、キッズデザイン賞が顕彰すべき点は、子どもがいることが楽しい、子どもがいることで活力が湧く、といったことだと思っています。子どもがいることが喜びである、と思える社会をつくる、そういう思いでデザインされた商品やサービスを掘り起こして広めていくことがキッズデザイン賞の役割だからですね。
子どもがいる社会こそ素晴らしいということを志向していくためには、社会をクリエイティブに変革していく必要があります。その意味では、例えば高齢者や先端的なサービスのために発案された取り組みであったとしても、子どもがいる環境にも応用してみるなど、アイデアの幅を広げていくことも大切です。
応募の際には「その提案で何ができているか」も大事ですが、目指す社会の姿が見えるよう、その取り組みでどう社会が変わるのか、を書いて欲しいと思います。子どもの伸びる力をいかに支えていくか、その力を社会の活力にできるか、そういうデザインに期待しています。

審査委員 渡 和由

渡 和由

まず申し上げたいことは、私にとってこの審査会は今年も楽しくて勉強になったということです。昨年と比べても、スタンダードの基準は上がったという感じがありますし、応募作品の多様性も増えている印象を持ちました。デザインの多様化に合わせて、意匠だけでなくソフトウェア的な部分を評価する時代になってきたと思います。
全体像を把握するための資料とともに、空間が使われているシーンや場のあり方を表現していただけると、よりキッズデザインの視点が明確になると思います。
いわゆるユーザー・エクスペリエンスの新たな表現に留意してプレゼンテーションしていただけることを期待しています。